Candy Stripper デザイナー板橋よしえの「おしえてすきなひと」 第4回 相澤樹
「時代によって変わる今の女の子に似合う服を提案したい」(板橋)
板橋 だから、まさか自分がデザイナーになるなんて本当に思ってなかったから、びっくりだよ。
相澤 でも、小さい頃から服に興味があったんですね。
板橋 うん。小学校の頃かな、何人かに洋服を褒められたことがあって。「その服、可愛いね」って。それが、自分で選んだ服だったりすると、次も自分で選ぼうってなるでしょ。そこから自分で、買いたい洋服を選ぶようになっていって。あとは、雑誌の切り抜きもよくしてた!
相澤 私もやってた! 今もファイルがいっぱいある。
板橋 あと、「こんな服があるといいな」っていう落書きばかりしてて。それで、進路を決めるときに、わたしは何が一番好きなのかなって自分のことをあらためて考えたときに、寝ても覚めても洋服のことばかり考えているな〜と思って。でも、デザイナーは雲の上の存在で、自分にはなれるわけなんてない。洋服が好きなだけで何が自分に向いているのかわからなかったから、とにかくファッションの専門学校に行こうと思って。スタイリストにも、カメラマンにも、ヘアメイクにもプレスにも興味があったんだけど、色々やっていくうちに、デザイナーという肩書きになって。自分の好きなことが全部やれる、いろんな欲求が叶うのがデザイナーだったんだよね。
相澤 私、いろんなデザイナーさんに会うし、話す機会もあるんですけど、よしえさんは間口が広いですよね。自分のテイストは残すけど、ちゃんと流行を敏感に感じてるし、視野も広い。そこが今もずっと人気の秘訣なのかなって思うんですよ。デザイナーもスタイリストもマニアックな人が多くて。好きな世界を突き詰めていく中で、歳を取るごとにどんどん視野が狭くなって行きがちなんですね。でも、よしえさんはずっと十代のままのような視野の広さで洋服を作ってるから、すごく刺激的だなって感じてて。
板橋 私は、女の子が大人になる手前の、揺らいでいる一瞬がすごく好きで。その一瞬に似合う服がキャンディの原点かな。もちろん、ブランドを始めた頃から自分も年齢を重ねて大人になっているし、お客様たちやまわりの友達たちが大人になってもずっと着ていて欲しいと思うから、今は儚い一瞬の時期の服だけではなく、大人になっても着れる洋服も提案したいと思ってる。根本的に自分が好きなポップな部分は変わらないんだけど、時代によって変化する女の子たちが似合う服を考えるのが好きなんだよね。
相澤 女の子像がいるっていうのが大事ですよね。初めて聞いたので、納得しました。ブランドって、ファンと一緒に歳をとる率が高いじゃないですか。でも、キャンディは、10代の頃に好きになった人が40代になっても着れるし、新しい10代の子も面白がって着てくれる。幅広い世代に愛される理由が今、わかった気がしました。
板橋 ミキティとわたしが共通しているのは好きなものがたくさんあることかな。好奇心旺盛なところを大事にしていて、そこが活力になっている。さらに、ミキティは日本だけじゃなく、中国にも行き来して、世界中に目を向けていて、凄い。
相澤 活気がある場所が好きなんですよね。マグロみたいなもので、止まると死んじゃうので(笑)。いろんな場所に行って、いろんな刺激を受けて、やっぱり日本はいいなって戻ってきたいんですよね。
板橋 これからのミキティはどうなっていくの? 好きなことはスタイリングにこだわらずに?
相澤 もともとスタイリストってこだわってなくて。
板橋 下北沢でおにぎり屋さんもやってるし、店舗の空間デザインもしたり、中国向けのブランドを立ち上げたりもしてるでしょ。
相澤 日本から中国に出たいブランドのために尽力したいっていう気持ちがあるんですよね。だから、作りたい洋服を作ってはいるんですけど、売るためとか、人気が出るためじゃなくて、アジアではどんなものが売れるのか、市場調査のために作ったブランドなんです。自分を育ててくれた日本のブランドがアジアの市場に出る時に力添えができるようになりたいなとは思って始めたんですよ。
板橋 本当にパワフルだよね。私はミキティが作る世界観のファンで、いろんな引き出しを持っているから、次はどんな世界を見せてくれるんだろうっていうのがいつも楽しみだし、ミキティと会うといつも元気をもらえるんだよね。人を楽しくさせて、笑顔にさせてくれる。それって、すごいことだなと思っていて。撮影の現場でもムードメーカーで、みんなに気配りして、一人でもつまんなそうにしてる人がいないようにする。みんなが楽しくなって、みんなで作り上げてるっていう気持ちにさせてくれる人なんですよね。決して誰も置いていかない優しい人。
相澤 みんなで作るっていうのはありますね。小さい頃はすごく暗かったんですよ。あんまり人と関りたくなくて。学校も一番遠かったので、筋トレのために一人で一輪車で通ったりしてて。それがバレて、校長室に呼ばれて。「大丈夫か、いつも一人で」って心配されて、校長先生に腹話術を教わったりしてて。あはははは。
「なるべく足を使って自分の目で見て、
自分の手で触れることは大事」(板橋)
板橋 ミキティの、まわりを楽しませたいという気持ちはどこからくるの?
相澤 楽しませたいと思ってないです。楽しいから、ですね。一緒に楽しんでくれてるのを見ると、余計にテンションが上がっちゃってという感じですね。でも、アシスタントは私の事怖いんじゃないかな(笑)。でも、何事も引きずらないんです。怒る時は怒りますけど、アシスタントも大事で。子育てと一緒で自分も成長できると思っているから。
板橋 この間、4人目のアシスタントが巣立ったんだよね。人によって変わってくると思うけど、今のミキティがアシスタントを育てるにあたって、大事にしてることってどんなこと?
相澤 頭でっかちになりすぎないことですかね。ウェブとかネットとか。私たちが小さい頃は全部、お店に電話をして通販で買ってたけど、今は調べたら、何でもすぐに手に入ってくる時代なので、なるべく足を使って、ちゃんとものを見たりとか、洋服じゃなく、景色でも道でもそう。カーナビ使って、道案内してもらうとか。それをやってると、視野がどんどん狭くなっちゃうので。自由にやってもらっていいんですけど、ちゃんと視野を持って、物事を考える事はテーマだよって言ってて。
板橋 今はネット中心だから、知りたいことは全部、携帯で調べるのが普通になっているよね。わたしもなるべく足を使って自分の目で見て、自分の手で触れることは大事だと思う。生地屋さんに足を運ぶことで、以前見たときにはときめかなかった糸や生地に興味が出たり、あらためて発見した手法や知らなかった知識を得て物作りに生かせることもあるし。(スタイリストのアシスタントさんも)リースするにあたって、ショップの商品情報をネットで見ることで、行く無駄が省けたりして便利で効率的なのかもしれないけど、行って発見することもたくさんあると思うから。
相澤 足を使わない、考えないっていうのが心配ですよね、今後ね。
板橋 うん。想像力が欠如してしまうのではないかということは心配。
でも、ミキティ、アシスタントに対してすごく優しくなったよね!
相澤 ほんとですか。厳しいですよ。うちは2年半から3年、出来ても出来なくても独立させます。あとは自分次第ですね。
板橋 ミキティが思う、これからスタイリストデビューしたアシスタントが生き残って行くために必要なものは何だと思う?
相澤 コミュニケーションじゃないですか。できない子、本当に多いから。人の話を聞かないで、突っ走る子が多いので。とにかく、自分だけが正しいって思わないで、いろんな人の話を聞いて、もっといろんな人から影響を受けて、もっとミーハーで生きないとダメなんじゃないかなと思いますね。ミーハーなのは大事だと思う。行き過ぎちゃうとダメだけど。それと、気配りとコミュニケーション。一人の殻にこもりがちだから。携帯いじって。
板橋 いろんな視野を持たないといけないよね。この依頼が来た時には、この引き出しって。
相澤 そう。引き出しを持つのは大事ですね。引き出しを空にしちゃいけないから、私は絶対に旅に出るようにしてます。もしも、空になっちゃったら、何も生み出せなくなってしまうので。