Candy Stripper デザイナー板橋よしえ連載「おしえて好きなひと」 第12回 イガリシノブ
「私も言葉や伝え方が上手な方ではないから
同じことを短めに何回も言うようにしてる」(板橋)
——へアイメイクの仕事だけはどうして続けてこれたんだと思いますか?
イガリ 結局、ヘアメイクしかないんですよ。男の子と別れても、メイク道具だけは残ってる。もう私の味方はヘアメイクしかいないっていうか。
板橋 あはははははは。
イガリ 離婚の時も、トランク1個だけを持って家を飛び出して。トランク1個がメイク道具で埋まっちゃったから、後から洋服を取りに行ったら、全部、捨てられてて。私にはもうメイク道具しか残ってない! っていう感じだから。
板橋 すごいね。面白いね。
イガリ あとは、小さい階段かもしれないですけど、常に登らせてもらってるなとも思いますね。梨花さんとご一緒して、加藤ミリヤさんとご一緒して、美容雑誌やって。自分で考えてる部分もありますけど、常に楽しさが舞い込んでくる。よしえさんに会えたのも、メイクを続けていたからだし、こんなに楽しさが舞い込んでくるものを諦められないですよね。
板橋 今はアシスタントを育成する立場になってるでしょ。撮影の時に、イガリちゃんがアシスタントにめっちゃ厳しくてびっくりして。今は叱るとすぐ辞めてしまう若者が多いと思うんだけど、イガリちゃんのアシスタントたちはちゃんと育って、独り立ちして活躍もしてる子もいる。育てるときに、どういうことを心がけてるのかなって。
イガリ えー、一応、よしえさんの前だから、あんまり怒らないように頑張ったんですけど(笑)。
板橋 いやいや、びっくりしたよ。この時代にこんなに厳しい人がいるんだって。
イガリ 私たちはマネジメント会社には所属しているけど、会社員ではなく、あくまでも個人なんですよね。独り立ちして、仕事ができる人たちの集まりの中に入った時に、何もできなくて、恥ずかしい思いをするのは本人じゃないですか。そこで失敗したとしても、会社に守られているわけではないから、上司が代わりに謝ってくれるわけでもないし、独立した後では私も守ってあげられない。だから、私が守ってあげられるうちに、教えないといけないことは教えておきたい。私にきついこと言われても、ここで失敗しても、這い上がってきてよ、みたいな感じで思ってるんですよ。
板橋 確かに。あの時に何を怒っていたかというと、対象となる方への気遣いが足りないよっていうことだったよね。
イガリ 怒り方がひどいけどね。「そんなのわからないの?」とか言っちゃうから。
板橋 言葉はキツイけど愛情は感じたよ。イガリちゃんの元でちゃんと育って、卒業して、独り立ちした後にお仕事した方もいるし。
イガリ 私の目標は、あくまでもその子が独り立ちして、ヘアメイクになってもらうことだから。でも、難しいですよね、人を育てるって。それをよしえさんはもう24年もやってて。
板橋 「みんなの前で言われるのは恥ずかしいのでやめてください」って言われたことない?
イガリ それはないですね。でも、「私がいないと無理ですよね」って言われたことがある。私、すぐに信じて、頼っちゃうんですよ。家の鍵も渡しちゃう。それでも、私がいないと無理ですよねって思わせちゃうことは下手だなって思ってる。
板橋 彼氏みたいな気持ちになっちゃうのかな。
イガリ そういう人もいる。でも、よしえさんは、自分で会社を立ち上げて、その中心にいるじゃないですか。本当にどうやったら、よしえさんみたいに、こんなに人がついてくるんだろうって思う。特に今の子なんて、ぼこぼこやめていくから。
板橋 うーん。私も言葉が上手ではなくて。頭の中で思っている伝えたい言葉が上手く表現出来ずに伝えちゃうこともあるんだけど、最近は何回も言わないと伝わらないものなんだなって思っていて。叱られてる相手は話してる内容が100あるとして10程度しか頭の中に話が入らない。だから、伝えるときはなるべく短めに、シンプルに話をするのを心がけているのと、相手に自発的に考えさせるようにしているかな。
イガリ えらい! 私、何回も言うことができない。学びます。
板橋 同じことを出来るまで繰り返し伝えること、一緒になって出来る方法を考えること、本人に考えさせることで少しづつ出来るようになると思う。
イガリ それこそ人を育てる能力ですよね。私は持ってないから頑張らないと。
板橋 いやいや。相手の立場になって考えてみたら、そういう結論に達したの。
イガリ あ、それ、私、アシスタントにも言います。「相手の立場になって考えて」って。私の立場になったらヤンキーみたいになっちゃうけど。
板橋 あははは。若いころは、みんなが自分と同じくらいのことを考えてるって思ってたんだよね。だから、相手にも同じことを求めていたんだけど、だいたいはそこまで考えてない。考えてないというか、思いが及んでないというか。そんなに期待しちゃだめだっていうことを学び、そこからは、それぞれの成長に合った話をするようになりました。
イガリ えらーい。でも、なかなかいないからね、よしえさんのように若くして起業する人は。そんなにすごい人の脳みそに追いつく人はいないんですよ。自分も途中でそう思うようになりました。ここまで気がきく人ってそんなにいないんだ、世の中って。
板橋 イガリちゃんは頭の回転も早いから。そのスピードに付いていけない人もいるだろうね。
イガリ 口は悪いけどね(笑)。あと、ヘアメイクとしては、一度に抱えてるアシスタントの人数は多くても3人だから、これまで通りやっていればよかったんだけど、化粧品のブランド「WHOMEE」の方は対会社だから、ちょっと違ってて。例えば、「WHOMEE」でバイトをしてる子は私の関わることではないから、それぞれの分担で行きましょうって、放っておくこともできるようになった。ヘアメイクのアシスタントはチームで、師匠と弟子だけど、「WHOMEE」はディレクターとバイト。ここはもう触れないでいきましょう、ポジションの壁を超えちゃいけないなって思うようになって。
板橋 それは私もある。全てを見てはいるんだけど、例えば、営業には営業の管轄があるから、細かくまでは入りすぎない。我慢! 耐える!! みたいな。
イガリ わかる! 思ってることはいっぱいあるんだけどね。あははは。
板橋 ね! でも、わたしやイガリちゃんみたいな立場の人間が意見を言ってしまうことは簡単だけど、みんなが意見を言い合うことで伸びてくるし、人も会社も成長するからね。