Candy Stripper デザイナー板橋よしえ連載「おしえて好きなひと」 第13回 TAKURO
「新しいキャンディを打ち出していかないと、
キャンディも自分も止まってしまうって感じた」(板橋)
——どうやって乗り越えたんですか。
TAKURO レコーディングを終えた2ヶ月くらいは、傷ついた動物が山奥で黙って傷が治るのを待つみたいな感じでいて(笑)。自分ではアルバムを聴けなかったんだけど、2ヶ月後に聴いてみたら、「悪くないな。いいかも」って思えて。「今の俺はこれか。よし、じゃあ、80までにこのフレーズをもっと上手に弾けるようになろう」っていう気持ちになった。GLAYのためにっていうことで始めたけど、自分の人生、迷わなくていいなって。このフレーズを上手くなろうとして、あと30年頑張ればいいんだ。毎日、それをやればいいって見えてるのはとっても大きなことだよね。
板橋 また強くなれるよね。課題が見つかったことで。
TAKURO いろんなミュージシャンと話すと、ぼんやりと世界制覇とか、海外で成功っていう目標を掲げる人もいるけど、いや、登る山は絶対に決めておいたほうがいいよって思うんだよね。イギリスのヒットチャートの1位なのか、アメリカのヒットチャートの1位なのか。ロシアかアフリカなのか。自分がどうあるべきかっていうイメージは明確じゃないといけない。登る山が富士山なのか高尾山のか、エベレストなのかで、準備から何から違ってくるから。
板橋 そうだね。ぼんやりしてたら定まらないもんね、自分が何をしたいのか。
TAKURO 「みんなに好かれる服」を作る方が逆に難しいよね。自分がどういう服を作りたいのか。よしえちゃんは見えてるんだと思う。
板橋 私が新しい大人のラインを始めようと思ったのは、ブランドを続けてると、知ってる人もいれば、知らない人も増えてくるからなんだよね。根本に持ってるものは変わらないけど、大人になるにつれて、同じではいられない。キャンディってこういうものだよねっていうのを大事にしながら、新しいキャンディを打ち出していかないと、キャンディも自分も止まってしまうって感じて。私はキャンディをできるだけ長く、死ぬまでやれたらいいなって思ってるから、そのためには同じことをしてても意味がない。自分自身が新しいことを発信しなくちゃいけないなって思って。でも、そこで、ちょっと迷って。これまでと全く違うと、違うブランドになっちゃうなっていうことに縛られてしまって。すごく悩んだんだけども、1回、固定観念を捨てて、自分が好きなものを描いてみたら、受け入れてもらえて。
TAKURO 俺もいつもそうだよ。新曲を聴いてもらうときは。
板橋 すごいビクビクしてたし、不安だったんだけど、自分が思ってるほど、人は気にしてないというか。
「今、バンドをやってて一番大事なのは、ある種の無邪気さ。
それが一番お客さんが熱狂するポイントだと思う」(TAKURO)
TAKURO だから、ものづくりって難しいよね。俺もGLAYを日々アップデートしていかなきゃなって思うんだけど、25年のキャリアがあると、わりと知識やテクニックで作れちゃうんですよ。今流行りの曲も全然作れる。実際に作ってみると、確かにカッコいいし、今っぽいかもしれないんだけど、全然好きじゃないんだよね。で、好きにやると、往年のGLAYサウンドになる。そこで、迷う人はたくさんいるんだけど、あらゆる経済活動や文化活動が自然の中の一部だとして、自然って流行り廃りじゃないじゃない。トレンドを追いかけることと、自分が死ぬまでの解いておきたい人生の意味を見つめるっていうのは、時々相いれないから悩むけど、そこには救いもあって。全然評判良くなかった曲があったとしても、10年後に受け入れてもらえたりする。そういう経験をしてからは、あまり他の人たちの意見に引っ張られなくなったね。言うなれば、自分以上に自分の作品や人生に責任を持ってる人はいないから。ほんとはね、周りにいる信頼できるやつ10人の意見を参考にすれば、統計学としては、あとは1万人でも変わらない。でも、ファンの人たちっていう可視化できないもの——世の中というのは、劇薬だよね。
板橋 うん、そうだね。
TAKURO ただ、GLAYっていう巨大なバンドの中にいながらも、俺は“世の中”に生きてないと思う。“世間”を生きてると思うんだよね。人は世間の中だけで一生を終えるはずなのに、たまに世の中っていうものに飲み込まれるじゃない。それでダメになっていく音楽家が多くて。あなたが意見を聞くべき人は、家族と信頼できる何人かでいいはずなんだけど、ファンの人のアンケートを見ちゃったりすると……。
板橋 こっちの方がいいのかな? って迷っちゃうよね。
TAKURO そうなるよね。俺は、目は通すけど、引っ張れられることはない。よしえちゃんの感じた不安は音楽とも通じるものがあると思う。でも、これだけのキャリアがあって、それが情熱に裏打ちされているものであれば、そもそも変なものはできないからね。「これをあの人に着て欲しい。絶対に似合うはずだ」っていう思いが、今後、歴史が長くなっていくと、より大事になるんじゃないかな。今、バンドをやってて一番大事なのは、ある種の無邪気さだよ。周りのことを考えない。それが一番お客さんが熱狂するポイントだと思う。いい歌詞やいいメロディよりも、「何年経ってもやたらとやる気があるな」とか、「なんだこの高校生感は」とか。バンドの基本はそれだよね。バンドって元々は楽器が弾けない友達同士で集まって始めるもので、その時が一番エネルギッシュ。だからこそ、GLAYの音楽作りに関しては、予算とか時間とかに縛られず、思い切りやって欲しいなって思うから、こういう会社のスタイルにしてて。自分たちで全てを責任取れるなら、いくらだってスタジオにこもっていていいし。
板橋 全てのバンドの理想だよね。
TAKURO 好きなだけレコーディングに没頭できる。その代わり、残りの半分はプロモーションも含めて、頭を下げることもやってください。それが大人のバンドとして成熟していくことだからっていう。メンバーは言わずともわかってくれてるから助かってるけど、俺、GLAYのメンバーっていうことを引いたら、ただのチーフマネージャーだよ、ほんとに。
板橋 あはははは。でも、こうして話していると、いつも思うよ。TAKUROくんの会社で働いてみたいな、TAKUROくんについていきたいなって。
TAKURO リーダーの仕事っていくつかしかなくて。うまくいってるときは、メンバーやスタッフ、社員のおかげでどんどん物事が進んでいくから、特にやることはない。何かトラブルが起きた時の処理係と仕事を作ること。あとは、でっかい目標を作ること。それ以外はリーダーの仕事ってないよね。バンドとしてのスケールのでかい壮大な夢を作るっていうことに関しては、TERUが手伝ってくれるので。
板橋 面白いよね、突拍子も無いアイディアをポンポン思いつくところ! だからこそワクワクさせてくれる存在というか。
TAKURO 面白いけど、もうちょっと現実的に近づけるのが俺の役目かな。よしえちゃんも日々、やってることだと思うけど。